不動産投資の失敗パターン7つ。
「物件が悪い」より前に起きていること
不動産投資の失敗は、たいてい物件を買ったあとではなく、提案書を受け取った時点で決まっています。家賃・空室・金利・修繕費を「変わらない」前提で組んだ収支表は、10年で数百万円ずれるからです。
この記事では、弊社が相談の場で繰り返し見てきた失敗を7つの型に分け、これまでの記事と同じ提案書を使って、前提を1つずつ現実に近づけると数字がどう動くかを示します。統計は金融庁・国土交通省・総務省の公表資料によります。
- 失敗の多くは「物件が悪かった」のではなく、提案書の前提が楽観的だったことから起きます。7つの型はすべて、家賃・空室・金利・修繕費・出口のどれかを固定した結果です。
- 同じ2,480万円のワンルームでも、10年の持ち出しは提案書どおりなら約23万円、家賃が年1%下がり毎年1か月空くなら約160万円、そこに積立金の値上げと金利+1.0%が重なれば約355万円になります。
- 見分け方は1つです。提案書に「下がる前提」が1つも書かれていなければ、その収支表は判断に使えません。金融庁が金融機関に説明を求めている項目(金利上昇・空室・家賃下落・修繕・サブリースの減額と解約)が、そのままチェックリストになります。
この記事で使う提案書
使う数字は「やめとけと言われる5つの理由」と同じ新築区分マンション1戸の提案書です。月々の負担が約2,000円に見える、よくある形です。
- 物件価格
- 2,480万円
- 借入額
- 2,500万円(金利1.9% / 35年 / 元利均等)
- 想定家賃
- 92,000円/月(据え置き)
- 空室率
- 0%
- 運営費
- 12,400円/月(管理費・修繕積立金)
- 月々の返済
- 81,538円
- 月々のご負担
- 約2,000円
金利は2026年7月時点の一般的な水準を参考にした仮定値です。以降の試算では、この提案書の数式をそのまま使い、前提だけを1つずつ差し替えます。10年後の残債は約1,946万円です。
金利水準の参照:日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
失敗パターン①〜⑦
① 家賃と空室を「変わらない」前提で35年分を組んでいる
提案書の収支表で最初に見るべきは、家賃の欄が35年間同じ数字かどうかです。新築時の家賃には新築であることの上乗せが含まれ、入居者が入れ替わるたびに周辺の中古相場へ近づいていきます。
総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、全国の空き家900万2千戸のうち賃貸用の空き家が443万6千戸(49.3%)を占めます。貸す側が余っている市場では、家賃を据え置いたまま募集を続けると空室期間が延び、結局どこかで下げることになります。
この提案書で家賃を年1%ずつ下げると、10年の持ち出しは約23万円から約72万円へ増えます。さらに毎年1か月の空室を織り込むと約160万円です。「据え置き」と「年1%下落+1か月空室」の差は10年で約137万円で、これは提案書の紙1枚の違いです。
空き家の内訳:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(結果の概要)」
② 新築価格で買い、中古価格で売る差を見ていない
区分マンションを新築で買うと、購入価格には販売会社の広告費・人件費・利益が含まれています。この上乗せ分は、買った翌日から中古として売る時点で価格に反映されません。
この提案書では、10年後の残債は約1,946万円です。提案書どおりに10年持ち出して売却諸費用4%を見込むと、10年後に「損をしないで出る」ために必要な売却価格は約2,051万円=購入価格の83%になります。①〜⑤の前提をすべて現実に寄せた場合は約2,397万円=購入価格の97%です。築10年のワンルームが新築時の8〜9割台で売れるかどうかが、この投資の成否をほぼ決めます。
この「出口で必要な売却価格」は、収支シミュレーターで自分の数字を入れて確かめられます。提案書にこの数字が無いなら、自分で出しておくのが安全です。
③ サブリースの「家賃保証」を保証だと思っている
サブリース契約の保証賃料は、契約期間中ずっと同じ額が約束されているわけではありません。多くの契約に賃料の見直し条項があり、オーナー側からの解約には正当事由が要る一方、サブリース会社からの減額請求や解約は現実に起きています。
消費者庁はサブリース契約について、賃料減額・契約解除のリスクを具体的に挙げて注意喚起しています。国土交通省も賃貸住宅管理業法のガイドラインで、サブリース業者に対し、家賃が減額される可能性や契約期間中でも解約される可能性を書面で説明するよう求めています。
金融庁の投資用不動産向け融資アンケート(2019年3月)も、投資家が認識しておくべきリスクとして「サブリース契約によって賃料が保証される場合であっても、保証賃料の減額や契約解除が生じるリスク」を挙げています。保証という言葉で収支を固定しないことが、この型の回避策です。詳しくはサブリース解約の記事で扱っています。
注意喚起:消費者庁「賃貸住宅のサブリース契約に関する注意喚起」/国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト/適正化のための措置」
④ 金利上昇を1円も織り込んでいない
不動産投資ローンの多くは変動金利です。三菱UFJ銀行の短期プライムレートは2026年8月3日から年2.375%で、2024年に利上げが始まる前の1.475%から約1ポイント上がっています。投資用ローンの適用金利も、この基準の動きに連動して見直されます。
この提案書(借入2,500万円・35年)では、金利1.9%の返済は月81,538円ですが、+0.5%で88,039円、+1.0%で94,823円です。月々の負担は約2,000円から約15,000円へ広がり、家賃の年1%下落と重ねた10年の累計持ち出しは約72万円から約231万円になります。
金融庁は金融機関に対し、借り手への金利上昇・空室率の上昇・賃料低下のリスク説明に改善の余地があると指摘しました。提案書に+0.5%・+1.0%の試算が無いなら、金融庁が説明を求めている項目が抜けている、ということです。
金利の現在値:三菱UFJ銀行「短期プライムレート」/推移:日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
⑤ 修繕積立金は「今の金額」がずっと続くと思っている
新築マンションの修繕積立金は販売時に低く設定されていることが多く、数年ごとの段階的な値上げが長期修繕計画に最初から組み込まれています。
国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、月/戸当たりの修繕積立金の平均は13,054円、管理費の平均は11,503円です(いずれも駐車場使用料等の繰り入れを除いた額)。一方で計画上の積立額に対して現在の積立額が不足しているマンションが36.6%あり、不足分はいずれ値上げか一時金で埋められます。
この提案書で6年目から積立金が月6,000円上がると、家賃の年1%下落と合わせた10年の持ち出しは約72万円から約108万円へ増えます。管理費・修繕積立金の欄が35年間同じ数字の提案書は、この型の入口です。
調査結果:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」(報道発表)
⑥ 節税を目的にして、赤字を「うまくいっている」と誤解する
「不動産所得の赤字を給与所得と損益通算して税金が戻る」という提案は、初年度は本当です。登記費用・不動産取得税・減価償却が集中するためです。
しかし2年目以降は経費が減り、赤字も還付も細ります。戻ってくる税金は「損をした分の一部」であって、損そのものが消えるわけではありません。年収が高いほど効くと言われるのは税率の話であって、投資の収支が改善する話ではありません。
仕組みは国税庁のタックスアンサー No.1370(不動産所得)と No.2100(減価償却)で確認できます。節税を主目的にする前に、節税の記事で「いくら戻り、いくら失うか」を並べてみてください。
制度の内容:国税庁 タックスアンサー No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」/国税庁 タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」
⑦ 融資を通すために書類を「整えて」もらった
金融庁のアンケート調査(2019年3月・銀行116行と信用金庫・信用組合331機関が回答)では、紹介業者が紹介した顧客に対して2015年4月〜2018年3月の3年間に一棟建向け融資を実行したことがある銀行は97%、信用金庫・信用組合は79%でした。一方で、紹介業者との取引を開始する要件・基準を設けている銀行は14%にとどまります。
同じ調査には、不動産関連業者が融資審査を通すために顧客の財産や収入を示す資料の改ざんや売買契約書の二重作成を行った事例、紹介業者が自己資金を偽装するために顧客の預金口座へ一時的に入金する事例が記されています。
書類を整えてもらって通った融資でも、返済するのは本人です。本来なら通らない金額を借りている以上、家賃が下がった瞬間に家計が耐えられなくなります。「自己資金ゼロで、年収の10倍以上を借りる」提案が出た時点で、この調査結果を思い出してください。
国民生活センターは2019年に、20歳代の投資用マンションに関する相談が2018年度に405件と、2013年度(160件)の約2.5倍に増えたと公表しています。断った相手への再勧誘は宅地建物取引業法で禁止されており、しつこい勧誘は消費者ホットライン(188)に相談できます。
調査と相談統計:金融庁「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」(2019年3月)/国民生活センター「20歳代に増える投資用マンションの強引な勧誘に注意!」(2019年3月)
前提を1つ変えると、10年でいくら動くか
同じ提案書で、前提を1つずつ現実に寄せたときの10年の累計持ち出しです。提案書の数式は変えていません。
| 前提 | 10年の持ち出し | 提案書との差 |
|---|---|---|
| 提案書どおり(家賃据え置き・空室0・金利1.9%・積立金据え置き) | 約23万円 | — |
| 家賃が年1%下落 | 約72万円 | +約49万円 |
| 家賃が年1%下落+毎年1か月の空室 | 約160万円 | +約137万円 |
| 家賃が年1%下落+6年目から積立金+6,000円/月 | 約108万円 | +約85万円 |
| 家賃が年1%下落+借入当初から金利+1.0% | 約231万円 | +約208万円 |
| 上の4つがすべて重なる | 約355万円 | +約332万円 |
※ 持ち出し=(家賃−運営費−返済)×12か月の10年合計で、マイナスは手元から出ていく金額です。金利の上昇は借入当初から適用した場合で計算しています。固定資産税・所得税の影響は含めていません。
提案書を受け取ったときの7つの確認
7つの型は、提案書の段階で次の7点を確かめれば見分けられます。すべて「はい」でなければ、収支表は判断に使えません。
| # | 確認すること | 対応する失敗パターン |
|---|---|---|
| 1 | 家賃の欄が35年間同じ数字になっていないか | ① |
| 2 | 空室期間(募集期間)が年に何日入っているか | ① |
| 3 | 10年後に損をしないで出るための売却価格を出したか | ② |
| 4 | サブリース契約の賃料見直し条項と解約条項を読んだか | ③ |
| 5 | 金利+0.5%・+1.0%の試算があるか | ④ |
| 6 | 修繕積立金の値上げ計画(長期修繕計画)を見せてもらったか | ⑤ |
| 7 | 自己資金と借入額が、自分の家計で説明できる範囲か | ⑥⑦ |
すでに買っている場合にできること
すでに買っていて、ここまでの型に当てはまる場合でも、選べる手は残っています。順番は3つです。
- 数字を出し直す。家賃・空室・金利を現実の数字に置き直して、月次の手残り・10年の累計持ち出し・出口で必要な売却価格を出します。収支シミュレーターで自分で出せます。
- 売った場合の損益を出す。残債と売却価格の差、譲渡所得税(保有5年超は長期譲渡)を含めて、今売るといくら足りないかを確かめます。手順はワンルーム売却の記事にあります。
- 持ち続けるなら、売る条件を先に決める。「家賃がいくらを割ったら」「金利が何%を超えたら」を決めておくと、判断が感情に流されません。
譲渡所得税の計算:国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」
弊社は物件を売らない立場で、この3つを数字で並べる相談を受けています。売る・持つのどちらが正解かは物件と家計で変わるため、数字を揃えてから判断します。
よくある質問
不動産投資で失敗する人の共通点は何ですか
物件の良し悪しより、提案書の前提を検証しなかったことが共通しています。家賃・空室・金利・修繕費を「変わらない」前提で組んだ収支は、この記事の試算では10年で数十万〜数百万円ずれます。7つの型はいずれも前提の楽観から起きるものです。
新築ワンルームは失敗しやすいのですか
一概には言えません。ただし新築価格には販売経費が含まれ、10年後に購入価格の8〜9割台で売れなければ持ち出しを回収できない構造は共通です。出口で必要な売却価格を先に出し、その価格が周辺の築10年の成約事例と比べて現実的かで判断します。
サブリースがあれば空室の心配はいらないのですか
いりません、とは言えません。保証賃料には見直し条項があり、減額請求や契約解除は現実に起きています。消費者庁と国土交通省が注意喚起している項目です。サブリース前提の収支は、保証賃料が2割下がった場合も並べて検討してください。
金利はどのくらい上がる前提で見ればよいですか
弊社は+0.5%と+1.0%の2通りを同時に見る方法をとっています。短期プライムレートは2026年8月に2.375%となり、2024年の利上げ前から約1ポイント上がっています。この幅は「起きうる範囲」として妥当です。
すでに買ってしまった場合、どうすればよいですか
①現実の家賃・空室・金利で月次・10年累計・出口価格を出し直す、②売った場合の損益を出す、③持ち続けるなら売る条件を先に決める、の3つを並べます。売る・持つのどちらが正解かは物件と家計で変わるため、数字を揃えてから判断します。
まとめ
失敗パターンの7つは、どれも「前提を固定した収支表」から始まります。家賃・空室・金利・修繕費・出口のうち、提案書が動かしていない項目を1つずつ動かしてみるだけで、その投資が家計に何を求めるのかが見えてきます。
その提案書が、
7つのどれに当たるかを計算します
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初回診断を予約する60分・オンライン ¥8,800(税込)この記事の前提と、その出どころ
本文の試算は次の一次情報を参照して前提を置いています。記事中の金額そのものは弊社が置いた仮定値であり、出典元が公表している数値ではありません。統計の数値と制度の内容は、各出典元の公表資料によります。
- 紹介業者経由の融資実行の割合、資料改ざんの事例、投資家が認識すべきリスクの列挙 … 金融庁「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」(2019年3月)
- 修繕積立金・管理費の平均額と、積立不足のマンションの割合 … 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」(報道発表)
- 賃貸用の空き家の戸数と割合 … 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(結果の概要)」
- 短期プライムレートの現在値(2026年8月3日適用) … 三菱UFJ銀行「短期プライムレート」
- 借入金利の推移と、+0.5%・+1.0%という幅の置き方 … 日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
- サブリース契約の賃料減額・契約解除に関する注意喚起 … 消費者庁「賃貸住宅のサブリース契約に関する注意喚起」
- サブリース業者に求められる説明事項 … 国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト/適正化のための措置」
- 20歳代の投資用マンションに関する相談件数 … 国民生活センター「20歳代に増える投資用マンションの強引な勧誘に注意!」(2019年3月)
- 不動産所得と減価償却の仕組み … 国税庁 タックスアンサー No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
- 減価償却のあらまし … 国税庁 タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」
- 譲渡所得税の計算 … 国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」
出典の確認日:2026-09-03
本記事の試算はいずれも一定の前提に基づく概算であり、収益・売却価格・融資条件・税額を保証するものではありません。実際の数値は物件・地域・金融機関・時期によって異なります。個別の税務判断は税理士に、法務判断は弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
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