不動産投資の節税は、誰に、いくら効くのか。
16年目に反転する仕組みまで
「不動産投資は節税になります」と言われたとき、返すべき質問は3つです。誰に、いくら、いつまで。この3つが決まらないと、節税は判断材料になりません。
この記事では、前回と同じ提案書を使い、3つを数字にします。税率と制度の内容はすべて国税庁の公表資料によります。
- 節税の正体は「減価償却で作った赤字を、給与所得と通算する」ことです。このケースでは不動産所得が年△13.0万円、還付は課税所得330万〜695万円の方で年3.9万円、900万〜1,800万円の方で年5.6万円。
- 設備部分の償却が終わる16年目に不動産所得が年+32.1万円の黒字へ反転します。そこからは税金を払う側に回ります。
- 売却時、償却した分だけ取得費が減ります。売値が簿価を上回れば、それまでの節税は「先送り」だったことになり、下回れば節税はそのまま残ります。どちらになるかは売値で決まります。
節税と呼ばれているものの正体
不動産所得は、家賃収入から必要経費を引いて計算します。必要経費には、運営費・固定資産税・借入金の利息のほかに減価償却費が入ります。
減価償却費は、実際には現金が出ていかないのに経費になるという性質を持ちます。だから、現金では黒字でも帳簿上は赤字にできます。その赤字を給与所得と通算すると、給与から源泉徴収された所得税の一部が戻ります。
これが「節税」と呼ばれているものです。制度上の裏技ではなく、減価償却という仕組みが素直に働いた結果です。
制度の内容:国税庁 タックスアンサー No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」/国税庁 タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」
- 物件価格
- 2,480万円
- 借入額
- 2,500万円(金利1.9% / 35年 / 元利均等)
- 年間家賃
- 110.4万円(月92,000円)
- 年間運営費
- 14.9万円(管理費・修繕積立金)
- 固定資産税等
- 年6.0万円
- 借入金の利息
- 年47.5万円(初年度の概算)
- 建物部分
- 992万円(価格の40%・耐用年数47年・定額法)
- 設備部分
- 496万円(価格の20%・耐用年数15年・定額法)
建物と設備の割合は物件によって異なります。ここでは建物40%・設備20%・土地40%として置きました。減価償却費は建物21.8万円+設備33.2万円=当初15年は年55.1万円、16年目以降は建物のみの年21.8万円になります。
金利水準の参照:日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
いくら効くのか(課税所得別)
不動産所得を計算します。110.4万円 −(14.9+6.0+47.5+55.1)=△13.0万円。この13.0万円を給与所得から差し引きます。
戻ってくる金額は、その人の税率で決まります。所得税の税率は課税所得の区分ごとに決まっており、住民税10%が上乗せされます。
| 課税される所得金額 | 所得税率 | 住民税 | 年間の節税額 |
|---|---|---|---|
| 330万円〜695万円 | 20% | 10% | 約3.9万円 |
| 695万円〜900万円 | 23% | 10% | 約4.3万円 |
| 900万円〜1,800万円 | 33% | 10% | 約5.6万円 |
※ 課税される所得金額は、年収から給与所得控除や各種控除を引いたあとの金額です。年収そのものではありません。復興特別所得税は含めていません。
税率:国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」
16年目に反転する
設備部分の耐用年数は15年としました。16年目からは設備の減価償却費33.2万円が消えます。経費が33.2万円減るので、不動産所得はその分だけ増えます。
あわせて、元利均等返済では年数が進むほど利息の割合が減ります。経費に入る利息も減っていきます。この2つが重なると、不動産所得は年+32.1万円の黒字に転じます。
| 時期 | 減価償却費 | 不動産所得 | 税金は |
|---|---|---|---|
| 当初〜15年目 | 年55.1万円 | △13.0万円 | 戻ってくる |
| 16年目以降 | 年21.8万円 | +32.1万円 | 払う側になる |
※ 16年目の利息は初年度の75%程度として概算しています。家賃・運営費・固定資産税は据え置きで計算しました。実際には家賃が下がる一方で運営費は上がるため、この表よりも黒字幅は小さくなる可能性があります。
これは制度の欠陥ではありません。減価償却は取得費を年に割り振っているだけなので、割り振り終われば経費が消えるのは当然のことです。問題は、提案書がこの反転を書かないまま「節税」と説明する場合があることです。
売却時に何が起きるか
もう一つ、提案書に書かれないことがあります。減価償却した分だけ、売却時の取得費が減ることです。
10年間で償却する額は55.1万円×10年=551万円。取得費2,480万円からこれを引いた1,929万円が10年後の簿価になります。譲渡所得は、売値から簿価と譲渡の費用を引いて計算します。
| 売却価格 | 譲渡所得 | 長期譲渡の税額 | 10年間の節税との関係 |
|---|---|---|---|
| 1,800万円 | △201万円 | 0円 | 節税はそのまま残る |
| 2,200万円 | +183万円 | 約37万円 | 節税39万円とほぼ相殺 |
| 2,500万円 | +471万円 | 約96万円 | 節税を上回る |
※ 譲渡の費用は売却価格の4%として計算しています。長期譲渡所得の税率は所得税15%・住民税5%に復興特別所得税(所得税額の2.1%)を加えた約20.315%です。10年間の節税額は課税所得330万〜695万円の方の年3.9万円×10年=39万円で比較しています。
税率:国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」/国税庁 タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」
読み取れることは1つです。節税が「残る」か「先送り」かは、売値が簿価を上回るかどうかで決まります。上回れば、それまでに戻った税金は売却時にまとめて精算される形になります。下回れば、譲渡損なので課税されず、節税はそのまま手元に残ります。
ただし後者は、物件の価値が簿価より下がっているという意味でもあります。節税が残ることと、投資として得をしていることは別の話です。
効きやすい人と、効きにくい人
ここまでを整理すると、節税が判断材料になる条件が見えます。
- 課税所得が高いほど効く。 表1のとおり、同じ赤字でも戻る額は課税所得で1.4倍以上変わります。
- 設備の償却期間が短いほど、当初の効きが大きく、反転も早い。 効きの大きさと期間の短さは裏表です。
- 売値が簿価を下回る見込みなら、節税は残る。 ただしそれは価値が下がっているということでもあります。
- 年3.9万〜5.6万円で、月々の収支の赤字を埋められるかは別問題。 前提を実勢に置き直した記事では、このケースの月々の負担は△23,113円でした。年に直すと27.7万円です。
4つ目が要点です。節税額(年3.9万〜5.6万円)は、月々の負担(年27.7万円)を埋めません。節税を理由に判断するのであれば、この差をどう考えるかを先に決めることになります。
よくある質問
節税になるという説明は嘘なのですか
嘘ではありません。減価償却で作った赤字を給与所得と通算する仕組みは制度どおりです。確認すべきは、いくら戻るのか、何年目まで続くのか、売却時にどう精算されるのかの3点です。この3点が説明されていれば、説明として不足はありません。
建物と設備の割合はどこで分かりますか
売買契約書や重要事項説明書の記載、または売主が発行する内訳書で確認します。割合が示されていない場合は、固定資産税評価額の比で按分する方法などがあります。按分の方法によって減価償却費が変わるため、実際の申告方法は税理士にご確認ください。
16年目の反転を避ける方法はありますか
その前に売却する、繰上返済で利息を減らす代わりに別の対応をとる、といった選択肢はありますが、いずれも別のコストと交換になります。反転そのものは減価償却の仕組みから生じるため、避けるというより、いつ来るかを先に把握しておくのが実務的です。
5年以内に売ると税金が高いと聞きました
譲渡益が出る場合の話です。短期譲渡所得の税率は所得税30%・住民税9%に復興特別所得税が加わり、長期の約20.315%より高くなります。所有期間は譲渡した年の1月1日時点で判定します。ただし譲渡損であれば、短期でも長期でも譲渡所得への課税は生じません。
相談すれば節税の方法を教えてもらえますか
弊社は税理士ではないため、個別の申告方法や税額の判断は行いません。行うのは、提案書に書かれた節税額が何年目まで続き、売却時にどう精算されるかを数字で整理することです。申告が必要な段階であれば税理士をご案内します。
まとめ
不動産投資の節税は、減価償却で作った赤字を給与所得と通算する仕組みです。このケースでは年3.9万〜5.6万円。効く額は課税所得で決まります。
そして16年目に反転し、売却時に精算されます。「誰に、いくら、いつまで」の3つが揃って初めて、節税は判断材料になります。
その節税額が、
何年目まで続くのかを計算します
物件を販売しないFP事務所が、建物と設備の割合から減価償却費を計算し、反転する年と売却時の精算まで通して整理します。個別の申告方法の判断は行いません。
初回診断を予約する60分・オンライン ¥8,800(税込)この記事の前提と、その出どころ
本文の試算は次の一次情報を参照して前提を置いています。記事中の金額そのものは弊社が置いた仮定値であり、出典元が公表している数値ではありません。税率と制度の内容は国税庁の公表資料によります。
- 不動産所得の計算と必要経費 … 国税庁 タックスアンサー No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
- 減価償却の仕組みと定額法 … 国税庁 タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」
- 所得税の税率(速算表) … 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」
- 長期譲渡所得の税額の計算 … 国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」
- 短期譲渡所得の税額の計算と所有期間の判定 … 国税庁 タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」
- 借入金利の水準 … 日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
出典の確認日:2026-08-21
本記事の試算はいずれも一定の前提に基づく概算であり、収益・売却価格・融資条件・税額を保証するものではありません。実際の数値は物件・地域・金融機関・時期によって異なります。個別の税務判断は税理士に、法務判断は弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
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