「不動産投資はやめとけ」と言われる5つの理由。
売らない立場から、数字で検証します
「不動産投資はやめとけ」は、ひとつの主張のように聞こえますが、中身は5つの別々の話です。5つのうちいくつが自分の物件に当てはまるかで、結論は変わります。
この記事では、5つを1つずつ数字に置き換えます。使うのは、前回の記事と同じ1件の提案書です。同じ物件を最後まで使うので、どの理由がいくら効いているかが金額で見えます。
- 「やめとけ」の中身は①新築の家賃は続かない ②空室と運営費が提案書に入っていない ③金利が上がると赤字が深くなる ④売っても残債が消えない ⑤途中でやめられないの5つです。
- この5つを同じ物件で積み上げると、月々の負担は約1,938円から23,113円へ、金利が1.0%上がる想定まで含めると36,398円へ動きます。
- 10年後に残債と持ち出しを回収するために必要な売却価格は約2,316万〜2,561万円(購入価格2,480万円の93〜103%)。ただし借入を2,500万円から2,000万円に下げるだけで、この数字は約1,707万円(68.8%)まで下がります。「やめとけ」が当たるかどうかは、物件ではなく借入条件で決まります。
この記事の内容
「やめとけ」は5つの話が1語になっている
検索して出てくる「やめとけ」の記事を並べると、挙げられている理由はおおむね5つに収れんします。問題は、5つが同時に起きる前提で語られることです。5つのうち2つしか当てはまらない人と、5つすべてが当てはまる人が、同じ言葉で説得されています。
逆に「不動産投資は儲かる」も、5つのうち1つも起きない前提で語られています。疑う対象は、売り手の楽観と世間の悲観の両方です。この記事はどちらの側にも立ちません。やることは、5つを1つずつ金額に置き換えることだけです。
以降の説明では、記事を通して同じ一件の提案書を使います。都市部の新築区分マンションで最も多く見かける形です。数字が出てくる箇所はすべて、この前提に基づくものと読んでください。
- 物件価格
- 2,480万円
- 自己資金
- 10万円(諸費用は借入に組み込み)
- 借入額
- 2,500万円(金利1.9% / 35年 / 元利均等)
- 想定家賃
- 92,000円/月(家賃保証・当初2年)
- 空室率
- 0%
- 運営費
- 12,400円/月(管理費・修繕積立金)
- 月々の返済
- 81,538円
- 月々のご負担
- 約2,000円
金利は2026年7月時点の一般的な水準を参考にした仮定値です。金額はこの前提での数値であり、実際の条件は物件・金融機関・時期によって異なります。以降の試算では、この提案書の数式をそのまま使い、前提だけを差し替えます。
金利水準の参照:日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
理由① 新築の家賃は、いつまで続くのか
「やめとけ」の理由として最も多く挙げられるのが、新築で買うと割高だという指摘です。ただ、割高かどうかは価格だけでは決まりません。効いてくるのは家賃のほうです。
新築の家賃には、最初の入居者だけが払う上乗せが含まれています。次の募集からは、同じ建物でも周辺の相場に寄っていきます。この提案書のケースでは、周辺の築10年・同タイプの募集賃料を82,000円としました。差は月10,000円です。
年間で12万円、35年で420万円。物件価格が割高かどうかではなく、この12万円が毎年続くかどうかが、実際の収支を決めています。
理由② 空室と運営費は、提案書の外にある
提案書の空室率は0%、運営費は管理費と修繕積立金だけの12,400円です。どちらも間違いではありません。入居中の月に限れば、この通りになります。
抜けているのは、入居していない月と、入退去のたびに出ていく費用です。原状回復、設備の経年交換、次の入居者を決めるための広告料。これらを長期平均でならすと、弊社の試算では実収入の25%程度を見込みます。空室率は5%と置きました。
空室の実勢:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」/修繕と設備更新の費用感:国土交通省「マンションに関する統計・データ等」
①と②を反映すると、月々の負担は約2,000円から23,113円になります。ここまでは金利が1円も動いていません。
理由③ 金利が上がると、赤字は深くなる
変動金利で借りている場合、返済額は借入時の水準で固定されません。ここでは+0.5%と+1.0%の2通りだけを見ます。物件も家賃も借入額も返済期間も、すべて同一です。
| 段階 | 差し替えた前提 | 月々の負担 |
|---|---|---|
| 提案書 | 記載のまま | △1,938円 |
| ①家賃 | 周辺の築10年相場 82,000円に | △11,938円 |
| ②空室 | 空室率5%を計上 | △16,038円 |
| ②運営費 | 実収入の25%に | △23,113円 |
| ③金利 | +0.5%(2.4%) | △29,614円 |
| ③金利 | +1.0%(2.9%) | △36,398円 |
※ 金利は借入当初からその水準だったものとして計算しています。実際に途中から上がる場合、それまでの返済が進んでいるぶん、負担はこの表よりわずかに軽くなります。
0.5%という幅の置き方について:日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
ここで注意したいのは、月々が赤字であること自体は、それだけでは良し悪しを決めないという点です。返済のうち元金部分は、手元から出ていっても残債を減らしています。赤字でも純資産が増えている状態は、この資産では日常的に起きます。
問題になるのは、その赤字を何年続けられるか、そして続けた分を出口で回収できるかです。次の節がそれです。
理由④ 売っても残債が消えない
「やめとけ」の理由のうち、提案書に最も書かれないのが出口です。書かれない理由は単純で、この物件の収支が完成するのは売却の瞬間だからです。
10年後に売ると仮定します。必要になる売却価格は、10年後の残債+そこまでの持ち出しの累計+売却諸費用の合計です。残債だけを見る計算より一段厳しくなりますが、実際に手元から出ていったお金を回収する条件はこちらです。
| ケース | 10年の持ち出し累計 | 10年後の残債 | 必要な売却価格 | 購入価格比 |
|---|---|---|---|---|
| ①②まで(金利1.9%) | 277万円 | 1,946万円 | 約2,316万円 | 93.4% |
| +金利0.5%上昇 | 355万円 | 1,985万円 | 約2,438万円 | 98.3% |
| +金利1.0%上昇 | 437万円 | 2,022万円 | 約2,561万円 | 103.3% |
※ 売却諸費用は売却価格の4%程度として計算しています。購入価格比は2,480万円に対する割合です。譲渡所得税は取得費・保有期間によって変わるため、この表には含めていません。
築10年時点の成約価格を確かめる先:公益財団法人不動産流通推進センター「指定流通機構の物件動向」
金利が1.0%上がる想定では、10年後に買った値段より高く売れて、ようやく回収できるという条件になります。新築の上乗せが乗った価格が10年で上回るかどうかは、周辺の築10年の成約事例と並べれば判断できます。
理由⑤ 途中でやめられない
5つ目は、金額ではなく期間の話です。売却価格が残債に届かない間は、不足分を現金で用意しなければ売れません。やめる判断ができない期間が、最初の数年から10年程度続くことがあります。
これは株式や投資信託と決定的に違う点です。値下がりした投資信託は、損失を確定させれば翌日には現金になります。借入で買った不動産は、損失を確定させる自由そのものに現金が要ります。
自己資金をほとんど入れない買い方は、月々の負担を軽く見せる一方で、この期間を長くします。買う前に出口を計算する意味は、売るためではなく、売れない期間の長さを知るためです。
「やめとけ」が当たらない場合
ここまでの5つは、すべて同じ1つの条件から出ています。2,480万円の物件を、2,500万円の借入で買っていることです。物件は何も変えず、借入だけを2,000万円に下げると、同じ5つの理由がどう動くかを見ます。
| 項目 | 借入2,500万円 | 借入2,000万円 |
|---|---|---|
| 月々の返済 | 81,538円 | 65,231円 |
| 月々の負担(①②反映後) | △23,113円 | △6,806円 |
| 10年の持ち出し累計 | 277万円 | 82万円 |
| 10年後の残債 | 1,946万円 | 1,557万円 |
| 必要な売却価格 | 約2,316万円(93.4%) | 約1,707万円(68.8%) |
※ 家賃・空室率・運営費はいずれも①②を反映した同じ条件です。変えたのは借入額だけです。
周辺の築10年の成約価格を1,800万円と置くと、借入2,500万円では届かず、借入2,000万円では届きます。同じ物件・同じ家賃・同じ金利で、結論が反転します。
ただし、これで有利になったと読むのは早すぎます。追加で入れた500万円が戻るかは別の話だからです。1,800万円で売れた場合、売却諸費用を引いた手取りは約1,728万円。残債1,557万円を返すと約171万円が残り、そこから持ち出し82万円を引くと手元は約89万円です。投じた自己資金の合計約510万円に対して、10年で約89万円。譲渡所得税は別途かかります。
これを高いと見るか低いと見るかは、他の選択肢と並べて決めることです。「やめとけ」も「儲かる」も、この計算をした上で言われているとは限りません。
赤字を許容できるかの3条件
月々の赤字そのものは、否定する対象ではありません。許容できるかどうかは、次の3つで判断できます。
- 家計から確実に負担し続けられる金額か。 表1の下2行(△29,614円・△36,398円)を、収入が変わっても払い続けられるか。
- 累計の持ち出しが、出口で回収できる見込みの範囲か。 表2の「必要な売却価格」を、周辺の築10年の成約事例と並べて判断します。
- 金利+0.5%・+1.0%、空室、大規模修繕が重なっても、1が崩れないか。
3つとも「はい」なら、5つの理由は当てはまりません。1つでも「いいえ」があるなら、その1つが自分にとっての「やめとけ」の中身です。
よくある質問
「不動産投資はやめとけ」は結局、正しいのですか
5つのうちいくつが当てはまるかで変わります。この記事の提案書のケースでは5つとも当てはまりますが、借入額を2,000万円に下げただけで④と⑤は外れます。物件の良し悪しより先に、借入条件を確認してください。
月々が赤字なら、その時点でやめたほうがよいのではないですか
赤字の金額だけでは判断できません。返済のうち元金部分は残債を減らしているため、手元が赤字でも純資産が増えている状態はよくあります。見るべきは、累計の持ち出しが出口で回収できるかどうかです。
家賃保証があるので、空室は考えなくてよいのではないですか
保証賃料は多くの契約で定期的に見直されます。当初の保証賃料が続く前提の提案書であれば、見直し条項と過去の改定実績を確認してください。保証の打ち切り・減額をめぐる紛争は消費者庁も注意喚起しています。
金利は+1.0%までしか見ないのですか
弊社の試算では+0.5%と+1.0%の2通りだけを使います。それ以上を持ち出すと数字が動きすぎ、判断の材料になりにくいためです。この2つで結論が変わらないなら、金利は主要な論点ではないと言えます。
相談すると、結局は買うように勧められるのではないですか
弊社は投資用不動産の販売・媒介を行いません。売る物件を持たないため、構造的に売り込みが成立しません。検証の結果、見送るべきという結論であればそのように伝えます。
ここで挙げた5つのうち、②の空室と運営費、③の金利は、年あたりの費用に直して積み上げた記事で1つずつ金額にしています。「いくら積んでおけばよいか」で見たい方はそちらを参照してください。
すでに購入していて、売るかどうかを考えている段階であれば、売却の判断を3つの数字で整理した記事が近い内容です。
まとめ
「不動産投資はやめとけ」は、5つの別々の話がひとつの言葉にまとまったものです。5つを分けて、同じ物件の数字に置き換えると、月々の負担は約2,000円から23,113円へ、金利が1.0%上がる想定まで含めると36,398円へ動きました。
そして、その5つを生んでいたのは物件ではなく借入条件でした。借入を500万円下げるだけで、10年後に必要な売却価格は購入価格の93.4%から68.8%へ変わります。読んで決まることではなく、自分の借入条件を数式に入れて初めて決まることです。
5つの理由が「提案書のどの前提から生まれるか」を型として整理したものは、失敗パターン7つの記事にまとめています。
その5つのうち、
いくつが当てはまるかを計算します
物件を販売しないFP事務所が、あなたの物件と借入条件で検証します。初回診断は、本格的な検証が必要かどうかを切り分けるための時間です。検証は不要という結論で終わっても構いません。
初回診断を予約する60分・オンライン ¥8,800(税込)この記事の前提と、その出どころ
本文の試算は次の一次情報を参照して前提を置いています。記事中の金額そのものは弊社が置いた仮定値であり、出典元が公表している数値ではありません。
- 借入金利の水準と、+0.5%・+1.0%という幅の置き方 … 日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
- 空室率の実勢 … 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」
- 修繕積立金と設備更新の費用感 … 国土交通省「マンションに関する統計・データ等」
- 築10年時点の成約価格・成約賃料を確かめる先 … 公益財団法人不動産流通推進センター「指定流通機構の物件動向」
- 家賃保証をめぐる注意喚起 … 消費者庁「賃貸住宅のサブリース契約に関する注意喚起」
- 不動産所得の計算と、必要経費に入るもの … 国税庁 タックスアンサー No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
出典の確認日:2026-08-21
本記事の試算はいずれも一定の前提に基づく概算であり、収益・売却価格・融資条件・税額を保証するものではありません。実際の数値は物件・地域・金融機関・時期によって異なります。個別の税務判断は税理士に、法務判断は弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
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