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COLUMN 02

不動産投資の収支シミュレーションの読み方。
営業提案の5つの前提を、順番に検証します

2026-07-22 約6分 執筆:株式会社アールラボ

営業担当者が提示する収支シミュレーションの計算は、ほとんどの場合正確です。電卓を叩き直しても誤りは見つかりません。それでも提案書と実際の収支が食い違うのは、計算ではなく前提が選ばれているからです。

この記事では、提案書のどの行に前提が潜んでいるかを5つに絞り、同じ物件を前提だけ差し替えて再計算します。読み終えたとき、手元の提案書のどこを見ればよいかが決まっているはずです。

シミュレーションは結論ではなく、前提の束

収支シミュレーションの最終行には「月々のご負担」や「実質収支」といった1つの数字が置かれます。読み手の視線はそこに集まりますが、その数字は上に並んだ前提から機械的に導かれた結果にすぎません。結論を疑っても得るものはなく、検証すべきは前提の側です。

以降の説明では、記事を通して同じ一件の提案書を使います。都市部の新築区分マンションで最も多く見かける形を再現しました。数字が出てくる箇所はすべて、この前提に基づくものと読んでください。

この記事で使う提案書|新築区分マンション1戸PROPOSAL
物件価格
2,480万円
自己資金
10万円(諸費用は借入に組み込み)
借入額
2,500万円(金利1.9% / 35年 / 元利均等)
想定家賃
92,000円/月(家賃保証・当初2年)
空室率
0%
運営費
12,400円/月(管理費・修繕積立金)
月々の返済
81,538円
月々のご負担
約2,000円

この提案書に計算の誤りはありません。92,000円から12,400円と81,538円を引けば、確かに月々約2,000円の負担です。以降で検証するのは計算ではなく、この表の前提です。金利は2026年7月時点の一般的な水準を参考にした仮定値です。

検証の姿勢はひとつだけです。「この行の数字は、何年目まで有効か」を行ごとに聞くこと。提案書は初年度の最良の月を35年間引き延ばして描かれています。

検証する5つの行

提案書のフォーマットは会社ごとに異なりますが、収支を決める行は5つしかありません。それぞれ、どこと突き合わせるかを先に示します。

表1:検証する5つの行と、突き合わせる相手
提案書の記載突き合わせる相手
① 家賃92,000円(保証付き)同じ建物・周辺の築10年の成約賃料
② 空室0%保証の対象期間と、保証賃料の改定条項
③ 運営費管理費・修繕積立金のみ原状回復・設備交換・入居者募集の費用
④ 金利1.9%(変動)金利が2%上がった場合の返済額
⑤ 出口記載なし、または購入価格のまま周辺の築古同タイプの成約価格と、その時点の残債

①と⑤に共通するのは「新築の数字ではなく、時間が経ったあとの数字と比べる」という視点です。新築の家賃と価格には、最初の入居者・最初の買い手だけが払う上乗せが含まれています。

前提を1行ずつ差し替える

表1の観点で前提を差し替え、月々の負担がどう動くかを見ます。使う数式は提案書と同一で、変えるのは前提だけです。

表2:前提の差し替えと月々の負担(借入2,500万円・35年)
段階差し替えた前提月々の負担
提案書記載のまま△1,938円
①家賃周辺の築10年相場 82,000円に△11,938円
②空室空室率5%を計上△16,038円
③運営費家賃の25%に(原状回復・募集費込み)△23,113円
④金利さらに金利+2%(3.9%)△50,774円

①〜③は固定金利でも起こりうる差し替えです。④は変動金利で借りた場合のストレスとして分けて見てください。運営費25%は、管理費・修繕積立金に加えて、退去のたびの原状回復・設備の経年交換・入居者募集の広告料を長期平均でならした保守的な置き方です。

SAME FORMULA, DIFFERENT ASSUMPTIONS △0.2万 △1.2万 △1.6万 △2.3万 △5.1万 提案書 ①家賃 ②空室 ③運営費 ④金利+2% 月々の負担の推移(同じ物件・同じ数式)
図1:どの段階まで許容するかは投資家ごとに異なる。ただし①と③は、時間の経過とともに高い確率で現実になる。

注意してほしいのは、この表が「提案書は誇張だ」という話ではないことです。①の家賃92,000円は新築の初回募集なら実際に取れる水準ですし、②の保証も当初2年は本物です。すべての行が初年度は正しく、時間の経過とともに順番に外れていく。それがこの表の読み方です。

手元の提案書で同じ検証をしたい方へ。初回診断(45分・5,500円)で、あなたの提案書の数字を使って再計算します。

「月々わずかな負担」の意味

提案書の最終行が「月々約2,000円のご負担」と書かれているとき、そこには2つの言い換えが含まれています。

ひとつは、マイナスの収支を「負担」と呼び替えていることです。月2,000円の負担とは、この物件が毎月2,000円の赤字を生むという意味です。生命保険や年金の掛金に似た語感がありますが、掛金と違って金額は固定されていません。表2で見たとおり、前提が外れるたびに「掛金」は増えます。

もうひとつは、収支の外にある出費が含まれていないことです。購入時の諸費用を借入に組み込んでいれば、その分は返済額の中に隠れます。不動産取得税は購入の半年後に届き、確定申告の手間は毎年発生します。月2,000円という数字は、これらを除いた最も身軽な月の姿です。

「月々わずかな負担」と説明されたら、こう読み替えてください。「初年度のいちばん良い月に、毎月これだけの赤字が出る」。そのうえで、赤字がいくらまで膨らみうるかを表2の要領で確かめます。

出口を確かめる

5つの行のうち、提案書に書かれないことが最も多いのが⑤の出口です。書かれない理由は単純で、この物件の収支が完成するのは売却の瞬間だからです。毎月の負担がいくら軽くても、売却で大きな損が出れば合計は取り返せません。

このケースで10年後を見ます。借入2,500万円は、10年返済しても残債が約1,946万円あります。一方、周辺の築10年同タイプの成約価格が1,800万円だとすると、売却費用(仲介手数料など約70万円)を引いた手取りは約1,730万円。売却しても約216万円が不足し、不足分を現金で用意しないと売れません

表3:10年後に売却した場合(成約価格1,800万円の想定)
項目金額
売却価格1,800万円
売却費用(仲介3%+諸費用)△70万円
ローン残債△1,946万円
手元の現金△216万円

残債を返しきるには約2,023万円で売れる必要があります。この金額を周辺の築10年の成約事例と比べることが、出口の検証そのものです。譲渡所得税は取得費・保有期間で変わるため、この表には含めていません。

フルローンに近い買い方は、月々の負担を軽く見せる一方で、売却の自由を最初の10年間失わせることがあります。買う前に出口を計算する意味は、売るためではなく、売れない期間の長さを知るためです。

商談で使える5つの質問

最後に、この記事の内容を商談の場で使える形に直します。提案書を前にして、次の5つを順番に聞いてください。

表4:提案書に対する5つの質問
対象質問
① 家賃「この建物か近隣の、築10年時点の成約賃料を見せてください」
② 空室「家賃保証の期間と、保証賃料の見直し条項を教えてください」
③ 運営費「原状回復・設備交換・募集広告料は、この表のどこに入っていますか」
④ 金利「金利が2%上がった場合の返済額で、同じ表を作ってもらえますか」
⑤ 出口「10年後の想定残債と、周辺の築10年の成約価格を並べてください」

誠実な担当者であれば、5つとも資料を用意できます。回答を渋る行があれば、その行こそが検証すべき前提です。

よくある質問

提案書の数字が正確なら、信じてよいのではないですか

計算の正確さと前提の妥当さは別の問題です。空室0%・家賃一定・金利据え置きという前提で計算すれば、どの物件でも収支は良く見えます。確認すべきは最終行の数字ではなく、各行の前提が何年目まで有効かです。

家賃保証(サブリース)があれば空室は考えなくてよいですか

保証賃料は多くの契約で定期的に見直されます。当初の保証賃料が35年続く前提の提案書であれば、見直し条項と過去の改定実績を確認してください。保証の打ち切り・減額をめぐる紛争は消費者庁も注意喚起しています。

運営費25%は高すぎませんか

管理費・修繕積立金だけなら家賃の15%前後で収まる物件も多くあります。25%は原状回復・設備交換・募集広告料を長期平均でならした保守的な置き方です。甘い前提を検証する記事が自分だけ甘い前提を使うわけにはいかないため、弊社の試算は一貫して25%を使います。

変動金利で借りるのは間違いですか

間違いではありません。ただし変動で借りる判断は「金利が2%上がっても耐えられる」ことの確認とセットです。表2の④の金額を見て、毎月の持ち出しに耐える現金があるかで判断してください。

相談すると物件を勧められるのではないですか

弊社は投資用不動産の販売・媒介を行いません。売る物件を持たないため、構造的に売り込みが成立しません。検証の結果、見送るべきという結論であればそのように伝えます。

まとめ

収支シミュレーションは、結論の数字を眺めるものではなく、前提を1行ずつ検証するものです。見るべき行は5つ。家賃、空室、運営費、金利、出口。とりわけ家賃と出口は「新築の数字」ではなく「築10年の数字」と突き合わせてください。

そして、この記事の表2はあくまで一般的な差し替え例です。あなたの提案書の前提がどこまで妥当かは、その物件の立地と建物、あなたの借入条件でしか決まりません。

その提案書、
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本記事の試算はいずれも一定の前提に基づく概算であり、収益・売却価格・融資条件・税額を保証するものではありません。実際の数値は物件・地域・金融機関・時期によって異なります。個別の税務判断は税理士に、法務判断は弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
前提金利は2026年7月時点の一般的な水準を参考にしています。