不動産投資のリスクは、年あたりいくらの費用なのか。
5つを金額に直して積み上げます
「不動産投資にはリスクがあります」と書かれた記事は数多くありますが、そのリスクが年いくらなのかを書いたものはあまり見かけません。金額が出ていないと、受け入れられるかどうかを決められません。
この記事では、代表的な5つのリスクを年あたりの費用に直します。使うのはメリット・デメリットの記事と同じ区分マンション1戸です。
- リスクは「起きるか起きないか」ではなく、毎年いくら積んでおくべき費用かで見ると判断できます。保険料と同じ考え方です。
- 空室・家賃下落・金利・修繕積立金・滞納の5つを年あたりに直すと、このケースでは合計で年24.3万円。提案書上の手残り年3.4万円は、年△20.8万円に反転します。
- それでも即座に「やめとけ」にはなりません。10年後に残債と持ち出しを回収するのに必要な売却価格は物件価格の85.5%。この水準で売れる見込みがあるかどうかが判断の分かれ目です。
この記事の内容
リスクは確率ではなく、費用として見る
火災保険を「火事が起きる確率」で考える人はあまりいません。年いくらの保険料なら払えるかで決めています。不動産投資のリスクも同じ形に直せます。
やり方は単純です。「1回起きたときの金額」を「何年に1回起きるか」で割る。これで年あたりの費用になります。空室も、修繕も、滞納も、この形に直せます。
以降の説明では、記事を通して同じ一件の物件を使います。営業提案でもっとも多く提示される、区分マンション1戸です。
- 物件価格
- 2,000万円(総投資額2,140万円)
- 自己資金
- 340万円
- 借入額
- 1,800万円(金利2.0% / 35年 / 元利均等)
- 年間賃料
- 102万円(月8.5万円)
- 年間運営費
- 27万円(管理費・修繕積立金・賃貸管理料・固定資産税)
- 年間NOI
- 75万円
- 年間返済額
- 71.6万円
- 提案書上の手残り
- 年3.4万円(月約2,800円)
この手残りは、空室ゼロ・家賃据え置き・金利据え置き・突発的な支出なしという前提で計算された数字です。以下では、その前提を1つずつ費用に置き換えます。
金利水準の参照:日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
① 空室と入退去
空室そのものより、退去1回にかかる費用のほうが効きます。家賃が入らない期間に加えて、原状回復と、次の入居者を決めるための広告料がかかるためです。
弊社の置き方は次のとおりです。空室2か月(17.0万円)+原状回復10.0万円+募集広告料1か月分(8.5万円)=1回あたり35.5万円。
これが4年に1回起きるとすると、年あたり8.9万円です。6年に1回なら年5.9万円、3年に1回なら年11.8万円。入居者の入れ替わりが何年に1回かで、この費用は倍近く動きます。
空室の実勢:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」
② 家賃の下落
家賃は据え置かれません。築年が進むにつれて、同じ部屋でも募集賃料は下がっていきます。ここでは10年で10%下がると置きました。
10年目には年間賃料が10.2万円減ります。10年間の平均でならすと、年あたり5.1万円の費用に相当します。
この10%という数字は、物件の立地と築年によって大きく変わります。確かめる先は募集賃料ではなく成約賃料です。
成約賃料の確かめ方:公益財団法人不動産流通推進センター「指定流通機構の物件動向」
③ 金利の上昇
変動金利で借りている場合、返済額は借入時の水準で固定されません。弊社の試算では+0.5%と+1.0%の2通りだけを使います。
| 金利 | 年間返済額 | 増える額 |
|---|---|---|
| 2.0%(当初) | 71.6万円 | — |
| 2.5%(+0.5%) | 77.2万円 | +5.7万円 |
| 3.0%(+1.0%) | 83.1万円 | +11.6万円 |
※ 借入当初からその金利だったものとして計算しています。
0.5%という幅の置き方について:日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
④ 修繕積立金の増額
区分マンションの修繕積立金は、多くの物件で段階的に増額する計画になっています。購入時の金額が続く前提で試算されていれば、そこは動きます。
ここでは10年のうちに月3,000円上がると置きました。年あたり3.6万円です。大規模修繕の際に一時金が求められる場合は、これに加算されます。
修繕積立金と大規模修繕の費用感:国土交通省「マンションに関する統計・データ等」
⑤ 滞納と貸倒れ
家賃保証会社を使えば大半は回収できますが、保証料はオーナー負担のこともあり、明渡しまでの期間は空室と同じ状態になります。ここでは年間賃料の1%、年1.0万円と置きました。
5つの中では最も小さい項目です。ただし、起きたときの手間は金額に表れません。
5つを積み上げると、収支は反転する
| 項目 | 置き方 | 年あたり |
|---|---|---|
| ① 空室と入退去 | 1回35.5万円を4年に1回 | 8.9万円 |
| ② 家賃の下落 | 10年で10%(10年平均) | 5.1万円 |
| ③ 金利の上昇 | +0.5% | 5.7万円 |
| ④ 修繕積立金 | 月3,000円の増額 | 3.6万円 |
| ⑤ 滞納・貸倒れ | 年間賃料の1% | 1.0万円 |
| 合計 | — | 24.3万円 |
金利を+1.0%にすると年△26.7万円(月△22,269円)です。物件も家賃も何ひとつ変えていません。変えたのは、前提を費用として計上したかどうかだけです。
出口まで通して見る
月々が赤字であること自体は、それだけでは良し悪しを決めません。返済のうち元金部分は残債を減らしているためです。判断は、累計の持ち出しを出口で回収できるかで行います。
| 金利 | 10年の持ち出し累計 | 10年後の残債 | 必要な売却価格 | 物件価格比 |
|---|---|---|---|---|
| 2.0%(据え置き) | 151万円 | 1,407万円 | 約1,623万円 | 81.2% |
| 2.5%(+0.5%) | 208万円 | 1,434万円 | 約1,711万円 | 85.5% |
| 3.0%(+1.0%) | 267万円 | 1,461万円 | 約1,800万円 | 90.0% |
※ 売却諸費用は売却価格の4%程度として計算しています。物件価格比は2,000万円に対する割合です。譲渡所得税は取得費・保有期間によって変わるため、この表には含めていません。
10年後に築年が10年進んだ状態で、物件価格の81〜90%で売れるかどうか。これが、5つのリスクを費用として引いたあとに残る、ただ一つの問いです。周辺の築10年の成約事例と並べれば確かめられます。
この5つが軽くなる条件
同じ5つでも、条件が違えば重さは変わります。効く順に挙げます。
- 自己資金を増やす。 借入が減れば③の金利上昇の影響が直接小さくなり、出口で必要な売却価格も下がります。
- 金利を固定する。 ③が消えます。ただし固定金利は当初の金利が高いため、その差額と交換になります。
- 入居者が長く住む物件を選ぶ。 ①は退去頻度で倍近く動きます。5つの中で最も振れ幅が大きい項目です。
- 修繕積立金の長期修繕計画を購入前に読む。 ④は購入前に金額が分かる唯一のリスクです。
逆に、この5つを軽くできない条件で買う場合は、表3の売却価格が達成できるかどうかに判断が集約されます。
よくある質問
リスクを費用として引くと、どの物件も赤字になりませんか
借入の比率が高い物件ほど赤字になりやすくなります。自己資金を多く入れた場合や、利回りの高い物件では黒字のまま残ることもあります。判断の分かれ目は物件そのものより借入条件です。
空室を4年に1回と置く根拠は何ですか
弊社が保守的に置いた仮定値です。単身向けの区分マンションでは入居期間が2〜4年程度になることが多いためこの水準にしています。実際の入居期間は物件の立地と間取りで変わるので、購入前に過去の入退去履歴を確認してください。
この5つ以外にリスクはないのですか
災害、事故物件化、管理会社の破綻、法制度の変更などもあります。この記事で5つに絞ったのは、いずれも金額に直せて、かつ購入前に条件を確認できるものだからです。金額に直せないリスクは、保険と分散で対応することになります。
年24.3万円を毎年積み立てておけばよいのですか
考え方としてはその通りですが、実際には支出のタイミングが偏ります。退去は4年に1回まとめて来て、金利上昇は一度上がると戻らないことがあります。均等に積むのではなく、まとまった出費に耐えられる現金を持っておくのが実務的です。
相談すると、結局は売るように勧められるのではないですか
弊社は投資用不動産の販売・媒介を行いません。売る物件も、買い手を紹介する仕組みも持たないため、保有を続けるべきという結論であればそのように伝えます。
なお、この5つには税金を含めていません。減価償却による還付と、売却時にそれがどう精算されるかは節税の記事で扱っています。
まとめ
不動産投資のリスクは、確率で語ると判断できません。1回あたりの金額を頻度で割り、年あたりの費用に直すと、提案書の手残り年3.4万円が年△20.8万円に反転しました。
そのうえで残る問いは1つだけです。10年後に物件価格の81〜90%で売れるか。この1問に答えられれば、5つのリスクは受け入れられるかどうかが決まります。
この5つのリスクを提案書の段階で見落とすとどう失敗するかは、失敗パターン7つの記事で扱っています。
5つのリスクを、
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初回診断を予約する60分・オンライン ¥8,800(税込)この記事の前提と、その出どころ
本文の試算は次の一次情報を参照して前提を置いています。記事中の金額そのものは弊社が置いた仮定値であり、出典元が公表している数値ではありません。
- 借入金利の水準と、+0.5%・+1.0%という幅の置き方 … 日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
- 空室率の実勢 … 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」
- 修繕積立金と大規模修繕の費用感 … 国土交通省「マンションに関する統計・データ等」
- 成約賃料・成約価格を確かめる先 … 公益財団法人不動産流通推進センター「指定流通機構の物件動向」
- 不動産所得の計算と、必要経費に入るもの … 国税庁 タックスアンサー No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
出典の確認日:2026-08-21
本記事の試算はいずれも一定の前提に基づく概算であり、収益・売却価格・融資条件・税額を保証するものではありません。実際の数値は物件・地域・金融機関・時期によって異なります。個別の税務判断は税理士に、法務判断は弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
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