新築ワンルームが失敗しやすいと
言われる理由。出口から逆算する
新築ワンルームの提案書は、たいてい入口の数字で作られています。月々の負担がいくらかは書いてありますが、10年後にいくらで売れれば元が取れるのかは書いてありません。
この記事では、出口から逆算します。これまでの記事と同じ新築区分マンション1戸の提案書を使い、10年後に必要な売却価格を先に出したうえで、修繕積立金がどう動くのか、中古としていくらで売買が成立しているのかを一次情報で確かめます。
- この提案書では、10年後に購入価格の82.7%(約2,051万円)で売れて、ようやく投じた資金を回収できます。新築で買ったものを、築10年の中古として8割超で売れるかどうかが判断の中心です。
- 運営費は据え置きの前提になっていることが多いのですが、国土交通省のガイドラインが示す修繕積立金の目安は専有面積1㎡あたり月335円(20階未満・延床5,000㎡未満の平均値)で、25㎡なら月8,375円にあたります。段階増額積立方式では、当初の額が低く設定されているぶん後から上がります。
- 家賃が年1%下がり、6年目から運営費が18,000円になるだけで、10年の持ち出しは約23万円から約105万円、必要な売却価格は購入価格の86.2%まで上がります。新築ワンルームで起きているのは、この「入口と出口の距離」です。
この記事の内容
この記事で使う提案書
弊社のコラムはすべて同じ1件で通しています。記事を横に並べて、どの前提を動かすと何が変わるのかを比べられるようにするためです。
- 物件価格
- 2,480万円
- 借入額
- 2,500万円(金利1.9% / 35年 / 元利均等)
- 想定家賃
- 92,000円/月(据え置き)
- 空室率
- 0%
- 運営費
- 12,400円/月(管理費・修繕積立金)
- 月々の返済
- 81,538円
- 月々のご負担
- 約2,000円
10年後の残債は約1,946万円です。専有面積は25㎡、地上10階建て・延床5,000㎡未満のマンションを想定します(修繕積立金の目安を当てはめるための仮定です)。
金利水準の参照:日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
まず出口から逆算する
提案書に書かれている「月々約2,000円」は、10年間で約23万円の持ち出しになります。この23万円と、10年後に残っている残債1,946万円の両方を、売却代金で回収できて初めて元が取れます。
(19,460,123円 + 232,616円)÷ 0.96 = 20,513,270円。購入価格2,480万円に対して82.7%です。譲渡所得税は別途かかります。
つまりこの提案書は、新築で買った部屋が、10年後に築10年の中古として購入価格の8割超で売れることを前提にしています。提案書のどこにも書かれていませんが、これが成立しなければ、月々2,000円の負担は最後に一括で顕在化します。
新築の価格には、建物と土地の値段のほかに、販売にかかった費用が含まれています。中古で買う人はその費用を負担しないため、新築の価格をそのまま引き継ぐ理由がありません。これは弊社の見方であって統計ではありませんが、出口の価格を「購入価格の何%か」で置いて確かめる意味はここにあります。
運営費は据え置かれない——修繕積立金のガイドライン
提案書の運営費12,400円は、管理費と修繕積立金の合計です。この行が35年間同じ数字になっている提案書は珍しくありません。ところが修繕積立金は、上げることを前提に設計されている場合があります。
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月策定・令和6年6月改訂)は、専有面積1㎡あたりの月額の目安を示しています。
| マンションの規模 | 事例の3分の2が包含される幅 | 平均値 |
|---|---|---|
| 20階未満/延床5,000㎡未満 | 235〜430円/㎡・月 | 335円/㎡・月 |
| 20階未満/5,000〜10,000㎡未満 | 170〜320円/㎡・月 | 252円/㎡・月 |
| 20階未満/10,000〜20,000㎡未満 | 200〜330円/㎡・月 | 271円/㎡・月 |
| 20階未満/20,000㎡以上 | 190〜325円/㎡・月 | 255円/㎡・月 |
| 20階以上 | 240〜410円/㎡・月 | 338円/㎡・月 |
専有25㎡を当てはめると、20階未満・延床5,000㎡未満なら平均値で月8,375円、幅でみると月5,875〜10,750円にあたります。提案書の運営費12,400円には管理費も含まれているため、修繕積立金だけを取り出すと目安の下限に近い設定になっていることがあります。
同じガイドラインは、積立の方式についても書いています。均等積立方式は「将来にわたり定額負担として設定するため、将来の増額を組み込んでおらず、安定的な修繕積立金の積立てができる」方式です。一方の段階増額積立方式には、「将来の負担増を前提としており、計画どおりに増額しようとする際に区分所有者間の合意形成ができず修繕積立金が不足する場合がある」という留意点が示されています。
令和6年6月の改訂では、段階増額積立方式をとる場合の引上げの考え方として、均等積立方式の月額を基準額としたうえで、「計画の初期額は基準額の0.6倍以上、計画の最終額は基準額の1.1倍以内とする」という目安が加えられました。裏を返せば、当初の積立金が基準額の6割まで低く設定されうるということです。買うときの運営費が安く見えるのは、それが理由の場合があります。
国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」では、修繕積立金が計画に対して不足しているマンションが36.6%(前回調査より+1.8ポイント)にのぼります。積立金の値上げは、起きるかどうかではなく、いつ・いくら起きるかで見る項目です。
前提を動かすと、必要な売却価格はどこまで上がるか
提案書の数式はそのままに、家賃と運営費だけを現実に寄せた場合の10年です。
| 前提 | 10年の累計 | 回収に必要な売却価格 | 購入価格に対して |
|---|---|---|---|
| 提案書のまま | −232,616円 | 20,513,270円 | 82.7% |
| 家賃が年1%ずつ下がる | −716,397円 | 21,017,208円 | 84.7% |
| 運営費が目安の平均まで増額 (12,400円→13,375円) | −349,616円 | 20,635,145円 | 83.2% |
| 6年目から運営費18,000円 | −568,616円 | 20,863,270円 | 84.1% |
| 家賃 年1%下落 + 6年目から 運営費18,000円 | −1,052,397円 | 21,367,208円 | 86.2% |
返済は元利均等の閉じた式で計算し、10年後の残債19,460,123円は全ケース共通です(金利を動かしていないため)。空室・原状回復・固定資産税・保険料は含んでいません。金利が上がった場合の影響は「儲からない」の正体で扱っています。
4行目と5行目は、特別に悪い想定ではありません。修繕積立金の値上げは36.6%のマンションで不足が生じている以上、起きうる範囲です。家賃の年1%下落も、入居者が入れ替わるたびに新築の上乗せが落ちていくと考えれば穏当な置き方です。それでも、必要な売却価格は購入価格の82.7%から86.2%へ、3.5ポイント上がります。
中古としていくらで売買が成立しているか
出口の価格が現実的かどうかは、実際に売買が成立している価格を見て判断します。中部圏不動産流通機構の月例速報(2026年7月度)では、中部圏の中古マンションについて次の実績が公表されています。
| 項目 | 実績 |
|---|---|
| 成約件数 | 533件 |
| 成約価格(平均) | 2,349万円 |
| 成約㎡単価 | 32.22万円 |
| 平均築年数 | 27.54年 |
この数値は間取りや面積を問わない中部圏全体の平均で、ワンルームだけを取り出した数字ではありません。㎡単価をそのまま25㎡に掛けて自分の物件の価格とすることはできません。ここで見ているのは「築年数が進んだ中古が、実際に売買されている」という市場の事実です。
自分の物件について出口の価格を確かめるなら、同じマンションか近隣の同規模・同築年の成約事例を、レインズを閲覧できる不動産会社に出してもらうのが確実です。売り出し価格ではなく、成約価格を見るのが要点になります。売り出し価格は、売れなかった価格を含んでいるからです。
新築を選ぶなら確認する5項目
新築ワンルームがつねに不利というわけではありません。確認すべき項目が中古より多い、というのが実際のところです。
| 確認すること | どこで確認するか | 見るポイント |
|---|---|---|
| ① 修繕積立金の方式 | 重要事項説明書・長期修繕計画 | 均等積立方式か段階増額積立方式か。増額の時期と金額が計画に書かれているか |
| ② 積立金の水準 | 管理費・積立金の内訳 | 専有面積1㎡あたりに直して、ガイドラインの幅(235〜430円)のどこにあるか |
| ③ 出口で必要な価格 | 自分で計算する | 10年後の残債+累計の持ち出しを、売却諸費用を差し引く前の価格に直す |
| ④ 近隣の成約価格 | レインズの成約事例 | 売り出し価格ではなく成約価格。同規模・同築年で③に届くか |
| ⑤ 家賃の根拠 | 賃料査定書・周辺の募集事例 | 新築時の家賃か、築10年の同等物件の家賃か。どちらで35年分を組んでいるか |
③は収支シミュレーターで計算できます。すでに保有している場合の判断はワンルームマンション売却の判断で扱っています。
よくある質問
新築ワンルームは買ってはいけないのですか
そうは考えていません。確認すべき項目が中古より多い、というのが実際のところです。この記事の提案書では10年後に購入価格の82.7%で売れることが回収の条件になるため、その価格が近隣の成約事例から見て現実的かどうかで判断します。
修繕積立金はどのくらい上がるものですか
計画によります。国土交通省のガイドラインは、段階増額積立方式をとる場合の目安として「計画の初期額は基準額の0.6倍以上、計画の最終額は基準額の1.1倍以内とする」としています。当初が基準額の6割まで低く設定されうるということなので、長期修繕計画で増額の時期と金額を確認してください。
提案書の運営費12,400円は安すぎるのですか
一概には言えません。管理費と修繕積立金の合計なので、内訳を分けないと判断できません。専有25㎡でガイドラインの平均値を当てはめると修繕積立金だけで月8,375円になるため、管理費が4,000円台であれば説明はつきます。内訳を出してもらうところから始めます。
出口の価格はどうやって調べればよいですか
同じマンションか近隣の、同規模・同築年の成約価格を不動産会社にレインズから出してもらうのが確実です。売り出し価格には売れなかった価格が含まれるため、成約価格を見ます。中部圏では2026年7月度に平均築27.54年・2,349万円で533件が成約しています。
すでに新築ワンルームを買ってしまいました
現実の家賃・運営費・金利で、月次・10年累計・出口で必要な売却価格を出し直すのが最初の作業です。そのうえで、売った場合の損益と、持ち続ける場合に売る条件を決めます。判断の手順はワンルームマンション売却の記事にまとめています。
まとめ
新築ワンルームで起きているのは、入口の数字と出口の数字が別々に置かれていることです。月々2,000円という入口は、10年後に購入価格の82.7%で売るという出口とセットになって初めて意味を持ちます。
修繕積立金の水準と方式、近隣の成約価格、家賃の根拠。この3つを確認すれば、必要な売却価格が現実的かどうかは自分で判断できます。判断のために必要なのは、良い物件を見分ける力ではなく、出口の価格を先に置く順番です。
出口で必要な価格を、
あなたの物件で計算します
物件を販売しないFP事務所が、修繕積立金の内訳と近隣の成約水準を踏まえて、10年後に必要になる売却価格を出します。初回診断は、本格的な検証が必要かどうかを切り分けるための時間です。
初回診断を予約する60分・オンライン ¥8,800(税込)この記事の前提と、その出どころ
本文の試算は次の一次情報を参照して前提を置いています。記事中の金額そのものは弊社が置いた仮定値であり、出典元が公表している数値ではありません。統計の数値と制度の内容は、各出典元の公表資料によります。
- 修繕積立金の額の目安(1㎡あたり月額)、均等積立方式と段階増額積立方式の特長と留意点、令和6年6月改訂の引上げの考え方 … 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月・令和6年6月改訂)
- ガイドライン改訂の趣旨 … 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の改定について
- 修繕積立金が不足しているマンションの割合(36.6%) … 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」(報道発表)
- 中部圏の中古マンションの成約件数・成約価格・㎡単価・平均築年数(2026年7月度) … 中部圏不動産流通機構「月例速報 Market Watch」
- 借入金利の推移と、前提金利の置き方 … 日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
- 短期プライムレートの現在値(2026年8月3日適用) … 三菱UFJ銀行「短期プライムレート」
- 譲渡所得の税額の計算(長期・所有期間は譲渡した年の1月1日で判定) … 国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」
- 取得費から所有期間中の減価償却費相当額を差し引くこと … 国税庁 タックスアンサー No.3252「取得費となるもの」
出典の確認日:2026-09-08
本記事の試算はいずれも一定の前提に基づく概算であり、収益・売却価格・融資条件・税額を保証するものではありません。実際の数値は物件・地域・金融機関・時期によって異なります。個別の税務判断は税理士に、法務判断は弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
前提金利は2026年7月時点の一般的な水準を参考にしています。