不動産投資の確定申告。
初年度・2年目以降・売った年で何が変わるか
「節税になります」と言われて買った物件の確定申告で、2年目から税金が増えることがあります。初年度だけ経費に落ちるものがあり、それが終わると不動産所得が黒字に変わるからです。
この記事では、確定申告を初年度・2年目以降・売った年の3つに分け、これまでの記事と同じ提案書で数字を出します。制度の内容は国税庁の公表資料によります。個別の判断は税理士にご確認ください。
- この提案書では、初年度は約61万円の赤字が給与と通算でき、課税所得330万円超695万円以下の方で約18万円の軽減になります。ところが2年目は不動産所得が約7.9万円の黒字になり、同じ税率なら約2.4万円の増税に変わります。
- 見落とされやすいのが、不動産所得の赤字のうち「土地等を取得するために要した負債の利子」に相当する部分は、他の所得と通算できないという特例です。この試算では初年度の赤字80万円のうち約19万円がこれに当たり、通算できるのは約61万円になります。
- 売った年は、給与とは別に計算する分離課税です。取得費は建物の購入代金から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額になるため、持っている間に経費にした分だけ売却時の利益が大きく出ます。所有期間の判定は譲渡した年の1月1日です。
この記事の内容
この記事で使う提案書
- 物件価格
- 2,480万円(建物1,488万円/土地992万円)
- 借入額
- 2,500万円(金利1.9% / 35年 / 元利均等)
- 想定家賃
- 92,000円/月(据え置き)
- 運営費
- 12,400円/月(管理費・修繕積立金)
- 固定資産税
- 年80,000円(仮定)
- 損害保険料
- 年8,000円(仮定)
- 初年度の一時費用
- 870,000円(仮定)
建物と土地の割合は6対4と仮定しています。実際は売買契約書の記載や固定資産税評価額の比などで按分します。初年度の一時費用は登録免許税・司法書士報酬35万円、融資関係の費用50万円、印紙税2万円の合計としています。金額はいずれも仮定値です。
不動産所得はどう計算するか
国税庁のタックスアンサーでは、不動産所得の金額は「総収入金額 − 必要経費 = 不動産所得の金額」と定められています。必要経費に入るのは「不動産収入を得るために直接必要な費用のうち家事上の経費と明確に区分できるもの」で、例として固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費が挙げられています。
| 区分 | 主なもの |
|---|---|
| 必要経費になる | 管理費・修繕積立金、管理会社への委託費用、固定資産税・都市計画税、損害保険料(期間に対応する分)、減価償却費、修繕費、借入金の利息部分、印紙税、税理士への報酬 |
| 経費にならない | 借入金の元金部分(返済であって費用ではありません)、土地の取得価額、所得税・住民税 |
| 取得価額に含める | 売買代金、仲介手数料、固定資産税の精算金など。建物分は減価償却を通じて年々経費になります |
登録免許税・不動産取得税は必要経費に算入する扱いと取得価額に算入する扱いのいずれも認められる項目があり、選び方で初年度の所得が変わります。実際の区分は税理士にご確認ください。この記事では必要経費として計算しています。
減価償却——建物だけが経費になる
建物は年数をかけて経費にしていきます。国税庁は、平成10年4月1日以後に取得した建物の償却方法は「旧定額法または定額法のみ」としています。定率法は使えません。
鉄筋コンクリート造の住宅用建物の法定耐用年数は47年で、定額法の償却率は0.022です。この提案書では建物1,488万円なので、1,488万円 × 0.022 = 年327,360円が減価償却費になります。土地は時の経過で価値が減らないものとして扱われるため、償却できません。
中古の物件を買った場合は年数が短くなります。国税庁の簡便法では、法定耐用年数の全部を経過した資産は「その法定耐用年数の20パーセントに相当する年数」、一部を経過した資産は「その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に、経過年数の20パーセントに相当する年数を加えた年数」とされています(1年未満は切り捨て、2年に満たない場合は2年)。
| 建物の状態 | 耐用年数 | 計算 |
|---|---|---|
| 新築 | 47年 | 法定耐用年数のまま |
| 築10年 | 39年 | 47 − 10 + 10 × 20% = 39 |
| 築25年 | 27年 | 47 − 25 + 25 × 20% = 27 |
| 築47年以上 | 9年 | 47 × 20% = 9.4 → 9年 |
耐用年数が短いほど1年あたりの減価償却費は大きくなりますが、償却できる総額(建物の取得価額)は変わりません。早く経費にするか、長く経費にするかの違いです。
初年度・2年目・3年目で税金はどう動くか
同じ提案書で、最初の3年を並べます。家賃・運営費は据え置き、変わるのは支払利息と初年度の一時費用だけです。
| 項目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|
| 総収入金額(家賃) | 1,104,000円 | 1,104,000円 | 1,104,000円 |
| 管理費・修繕積立金 | 148,800円 | 148,800円 | 148,800円 |
| 支払利息 | 470,592円 | 460,858円 | 450,938円 |
| 減価償却費 | 327,360円 | 327,360円 | 327,360円 |
| 固定資産税・損害保険料 | 88,000円 | 88,000円 | 88,000円 |
| 初年度の一時費用 | 870,000円 | — | — |
| 必要経費 合計 | 1,904,752円 | 1,025,018円 | 1,015,098円 |
| 不動産所得 | −800,752円 | +78,982円 | +88,902円 |
| 給与と通算できる金額 | −612,515円 | — | — |
| 税額の増減(税率30%の場合) | 約183,755円の軽減 | 約23,694円の増 | 約26,671円の増 |
税率30%は、課税所得330万円超695万円以下の所得税20%と住民税10%の合計です。翌年度の住民税に反映される分を含めた概算で、実際の税額は他の所得・控除によって変わります。空室・原状回復・修繕は含んでいません。
初年度に赤字が出るのは、登記や融資にかかる一時費用があるからです。その費用がなくなる2年目には、この物件の不動産所得は黒字に転じます。減価償却費327,360円を差し引いてなお黒字なので、確定申告のたびに税金が増える形になります。
3年目以降も、支払利息が毎年少しずつ減っていくため、不動産所得は少しずつ増えていきます。設備部分の償却が終わる時期にもう一段大きく反転する仕組みは、節税の記事で扱っています。
損益通算の落とし穴:土地の借入金利子
不動産所得が赤字になったとき、その赤字を給与所得と通算できるのが「節税」と呼ばれているものです。ただし、通算できない部分があります。
国税庁のタックスアンサー No.1391 は、損益通算の対象にならないものとして「不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額」を挙げています。土地の分の利息は、赤字になっても給与と通算できません。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 不動産所得の赤字 | −800,752円 |
| うち土地等を取得するための負債の利子(借入の4割相当) | 188,237円 |
| 給与所得と通算できる金額 | −612,515円 |
土地と建物の割合は6対4という仮定に基づき、支払利息を同じ割合で按分しています。実際の按分方法は契約内容によって異なるため、税理士にご確認ください。
この特例があるため、土地の割合が大きい物件ほど、赤字を通算できる金額は小さくなります。提案書に「税金が○万円戻ります」と書かれている場合、この調整が入っているかどうかを確かめてください。入っていなければ、還付額は書かれているより小さくなります。
青色申告をどこまでやるか
青色申告特別控除は3段階です。国税庁の要件は次のとおりです。
| 控除額 | 要件 |
|---|---|
| 10万円 | 55万円・65万円の要件に該当しない青色申告者が受けられます |
| 55万円 | 不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営み、複式簿記で記帳し、貸借対照表・損益計算書を確定申告書に添付して期限内に提出すること |
| 65万円 | 55万円の要件に加えて、仕訳帳・総勘定元帳の電子帳簿保存を行うか、確定申告書等の提出を期限までにe-Taxで行うこと |
55万円・65万円は「事業」であることが要件です。区分マンション1戸の貸付けは、通常これに当てはまりません。
この「事業」に当たるかどうかの目安が、いわゆる5棟10室です。国税庁は、貸間・アパート等については「貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること」、独立家屋の貸付けについては「おおむね5棟以上であること」としています。
区分マンション1戸から始める場合、受けられるのは10万円の控除です。それでも青色申告に意味があるのは、赤字を3年間繰り越せることと、家族に支払う給与を経費にできる余地が生まれることです。ただし後者も事業的規模かどうかで扱いが変わるため、規模が小さいうちは10万円の控除と記帳の習慣づけが実益になります。
売った年の申告
売却した年は、不動産所得とは別に譲渡所得を計算します。国税庁は分離課税について、「譲渡所得金額についての税額を、事業所得や給与所得などの他の所得の金額とは区別し、租税特別措置法に規定された税率によって計算します」としています。
ここで効いてくるのが減価償却です。国税庁は「建物の取得費は、購入代金または建築代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額となります」としています。持っている間に経費にした金額は、売るときの取得費から差し引かれます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 譲渡価額 | 20,500,000円 |
| 建物の取得価額 | 14,880,000円 |
| 10年間の減価償却費の累計 | −3,273,600円 |
| 土地の取得価額 | 9,920,000円 |
| 取得費 合計 | 21,526,400円 |
| 譲渡費用(価格の4%と仮定) | 820,000円 |
| 譲渡所得 | −1,846,400円 |
この例では譲渡損失になるため譲渡所得税はかかりません。ただし土地建物の譲渡による損失は分離課税で計算するため、給与所得などと通算する仕組みは用意されていません(一定の居住用財産には別の特例があります)。
税率は所有期間で変わります。譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得で所得税15%・住民税5%、5年以下であれば短期譲渡所得で所得税30%・住民税9%です。判定が「売った日」ではなく「売った年の1月1日」であるため、買ってから5年が過ぎていても短期になる期間が生じます。売る時期を年単位で調整する意味はここにあります。
売るかどうかの判断そのものはワンルームマンション売却の判断で、10年後にいくらで売れれば回収できるかは新築ワンルームの記事で扱っています。
なお確定申告の期間は、国税庁のタックスアンサーによれば「原則として、その年の翌年2月16日から3月15日まで」です。売った年は譲渡の計算に時間がかかるため、売買契約書・仲介手数料の領収書・購入時の契約書を早めに揃えておくと進みます。
よくある質問
不動産投資を始めたら、確定申告は要りますか
給与所得者で、給与以外の所得が年20万円を超える場合には申告が要ります。不動産所得が赤字で給与と通算して還付を受ける場合も申告して初めて反映されます。申告の期間は原則として翌年2月16日から3月15日までです。
初年度は還付があったのに、2年目から税金が増えました
初年度に経費になった登記や融資にかかる一時費用がなくなるためです。この記事の試算では、初年度は約61万円の赤字を給与と通算できて税率30%なら約18万円の軽減になりますが、2年目は不動産所得が約7.9万円の黒字となり約2.4万円の増税に転じます。
不動産所得の赤字は全額を給与と通算できますか
できません。国税庁は、赤字のうち「土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額」は損益通算の対象にならないとしています。この試算では初年度の赤字約80万円のうち約19万円がこれに当たり、通算できるのは約61万円です。
区分マンション1戸でも青色申告特別控除65万円は受けられますか
通常は受けられません。55万円・65万円の控除は不動産所得を生ずべき「事業」であることが要件で、その目安は独立した室数がおおむね10室以上、独立家屋であればおおむね5棟以上とされています。1戸の場合は10万円の控除になりますが、赤字の繰越しができる点に意味があります。
売ったときの税金は、どのくらいかかりますか
譲渡所得に対して、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えていれば所得税15%・住民税5%、5年以下であれば所得税30%・住民税9%です。取得費は建物の購入代金から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額になるため、長く持つほど取得費は小さくなり、同じ売却価格でも利益が大きく出ます。
まとめ
確定申告は、初年度・2年目以降・売った年で見るものが変わります。初年度は一時費用で赤字になり、2年目からは黒字に転じ、売った年は分離課税で減価償却の分だけ利益が大きく出る。3つの局面をつないで見ておくと、「節税になる」という説明がどの局面の話なのかが分かります。
そのうえで、土地の借入金利子は通算できないという特例と、青色申告の控除額が規模で決まるという2点を押さえておけば、提案書に書かれた還付額を自分で検算できます。個別の税務判断は税理士にご確認ください。
提案書の還付額を、
いっしょに検算します
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本文の試算は次の一次情報を参照して前提を置いています。記事中の金額そのものは弊社が置いた仮定値であり、出典元が公表している数値ではありません。統計の数値と制度の内容は、各出典元の公表資料によります。
- 不動産所得の計算式と必要経費の例 … 国税庁 タックスアンサー No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
- 損益通算の対象にならない「土地等を取得するために要した負債の利子」 … 国税庁 タックスアンサー No.1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」
- 建物の償却方法(定額法のみ) … 国税庁 タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」
- 中古資産の耐用年数の簡便法 … 国税庁 タックスアンサー No.5404「中古資産の耐用年数」
- 事業としての不動産貸付けの判定(おおむね10室・おおむね5棟) … 国税庁 タックスアンサー No.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」
- 青色申告特別控除の要件(10万円・55万円・65万円) … 国税庁 タックスアンサー No.2072「青色申告特別控除」
- 確定申告の期間(翌年2月16日から3月15日) … 国税庁 タックスアンサー No.2020「確定申告」
- 譲渡所得の課税方法(分離課税) … 国税庁 タックスアンサー No.3105「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」
- 取得費から所有期間中の減価償却費相当額を差し引くこと … 国税庁 タックスアンサー No.3252「取得費となるもの」
- 長期譲渡所得の税率と所有期間の判定 … 国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」
- 短期譲渡所得の税率 … 国税庁 タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」
出典の確認日:2026-09-08
本記事の試算はいずれも一定の前提に基づく概算であり、収益・売却価格・融資条件・税額を保証するものではありません。実際の数値は物件・地域・金融機関・時期によって異なります。個別の税務判断は税理士に、法務判断は弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
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