不動産投資のメリット・デメリット全10項目。
強みと弱みが同じ理由を、数字で解説します
メリットとデメリットを5つずつ並べた記事は、すでに何本か目を通しているはずです。それでも判断がつかないのは、記事の質の問題ではありません。並べ方の問題です。
この記事でも10項目すべて挙げます。ただし、10項目のすべてが一点に帰着するという順序で書きます。その一点とは、借入です。
強みと弱みは、別々のリストではない
不動産投資が他の資産クラスと決定的に異なる点は、ひとつしかありません。他人資本で買えることです。
株式や投資信託を買うために銀行が数千万円を融資することはありません。担保になる実物があり、家賃という返済原資が見込めるという理由で、不動産にだけ融資がつきます。この一点が、この資産の性質のすべてを決めています。
以降の説明では、記事を通して同じ一件の物件を使います。営業提案でもっとも多く提示される、区分マンション1戸を想定しました。数字が出てくる箇所はすべて、この前提に基づくものと読んでください。
- 物件価格
- 2,000万円
- 購入諸費用
- 140万円
- 総投資額
- 2,140万円
- 自己資金
- 340万円(頭金200万円+諸費用140万円)
- 借入額
- 1,800万円(金利2.0% / 35年 / 元利均等)
- 年間賃料
- 102万円(月8.5万円)
- 年間運営費
- 27万円(管理費・修繕積立金・賃貸管理料・固定資産税)
- 年間NOI
- 75万円
NOI(実質収入)は満室想定の年間賃料から運営費を控除した金額です。所得税・減価償却は含みません。金利は2026年7月時点の一般的な水準を参考にした仮定値で、実際の条件は物件・金融機関・時期によって異なります。
この記事の試算は、すべてこの1ケースを共通の土台として計算しています。金額はこの前提での数値であり、一般的な相場を示すものではありません。
「他人資本で買える」の裏面が「売却しても債務が残る」です。この2つは別の項目ではなく、同一の矢印の根元と先端にすぎません。天秤の左右に同じものが乗っている以上、項目を数えても傾きは決まりません。
メリット5つ
一般に挙げられる強みを列挙します。各項目に、借入のどの性質に由来するかを添えました。
デメリット5つ
番号は、対応するメリットと揃えてあります。
借りるか、借りないか
ここまで挙げた10項目が実際にどう効くのかを、数字で見ます。冒頭の前提に置いた物件を、全額自己資金で取得した場合と、1,800万円を借りて取得した場合で比較します。物件も家賃も同一で、違いは調達方法だけです。
| 項目 | 全額自己資金 | 借入1,800万円 |
|---|---|---|
| 投下自己資金 | 2,140万円 | 340万円 |
| 年間NOI | 75.0万円 | 75.0万円 |
| 年間返済額 | 0 | 71.6万円 |
| 手残り現金 | 75.0万円 | 3.4万円 |
| 1年間の元金返済 | — | 35.9万円 |
| 自己資金利回り | 3.5% | 11.6% |
※ 前提は冒頭のケースに同じ。自己資金利回りは「手残り現金+元金返済」を投下自己資金で除した値です。
差を生んでいるのは手元の現金3.4万円ではありません。効いているのは元金35.9万円のほうです。両者を合算した39.3万円がこの年に増えた純資産で、投下自己資金340万円に対して11.6%になります。
ただし、増えた金額そのものは75万円から39.3万円へ減っています。レバレッジは金額を増やす装置ではなく、投下資金あたりの効率を上げる装置です。この区別を曖昧にしたまま「不動産は儲かる」と語られると、議論が噛み合わなくなります。
金利だけを動かす
いま見た借入1,800万円のケースについて、金利だけを動かします。物件も家賃も借入額も返済期間も同一です。
| 金利 | 年間返済額 | 手残り現金 | 元金返済 | 自己資金利回り |
|---|---|---|---|---|
| 2.0% | 71.6万円 | +3.4万円 | 35.9万円 | 11.6% |
| 3.0% | 83.1万円 | △8.1万円 | 29.5万円 | 6.3% |
| 4.0% | 95.6万円 | △20.6万円 | 24.1万円 | 1.0% |
※ いずれも元利均等返済・35年。他の条件はすべて同一です。
2.0%では毎月2,800円が手元に残り、4.0%では毎月1.7万円を給与から補填することになります。同じ物件、同じ入居者、同じ家賃です。金利2.0%から4.0%への上昇による年間返済増は、借入1,500万円で20.1万円、1,800万円で24.1万円、2,000万円で26.8万円になります。
一方、右端の自己資金利回りはマイナスに転じていません。手残りが赤字でも元金は減り続けるためです。毎月赤字だが純資産は増えているという状態は、この資産クラスでは日常的に発生します。
「不動産投資は儲かる」も「不動産投資はやめとけ」も、多くはこの表のいずれか1行だけを見て語られています。どの行に立つかは、個々の借入条件でしか決まりません。
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「やめとけ」も、あなたの数字ではない
この記事は不動産投資に反対する立場でも、推奨する立場でもありません。疑っているのは、次の2つの言明の両方です。
正反対に見えますが、欠けているものは同一です。個別の数字で計算されていないという一点にすぎません。売り手は売るために断定し、匿名の意見は書き手自身の条件で語ります。どちらも、読み手の借入条件も、家賃下落の許容度も、保有年数の予定も知りません。
借入を使わない不動産投資
強みも弱みも借入に帰着するのであれば、借りずに買えばどうなるのか。強みの源泉を外したとき何が残るかを確認しておきます。
表1に戻ります。全額自己資金の利回りは3.5%。総投資額2,140万円に対して年75万円です。預金や国債より高く、株式の期待リターンと比べて特筆すべき水準ではありません。加えて流動性は低く、修繕費は突発的に発生します。運用効率だけを基準にするなら、借入を用いない不動産投資は合理性を欠きます。
ただし、合理性が成立する局面が2つあります。
相続を控えている場合
メリット05の評価圧縮は、借入がなくても働きます。現金のまま保有する2,000万円はそのまま課税対象ですが、同額を賃貸用不動産に転換すれば評価額はおよそ982万円。差はおよそ1,018万円で、相続税率30%なら税額で300万円前後の差になります。この局面では、利回り3.5%という数字は主目的ではありません。
分散が目的の場合
株式と債券に偏った構成に、相関の異なる実物資産を加える。目的はリターンの最大化ではなく変動の平準化です。借入を用いなければ、デメリット01から03はほぼ消滅します。
よくある質問
結局、メリットとデメリットはどちらが大きいのですか
比較する対象ではありません。同じ借入という一点の表と裏である以上、大小は項目数ではなく借入条件と保有計画で決まります。金利2.0%と4.0%では、同一物件が別の資産になります。
手残りが赤字でも純資産が増えるというのは本当ですか
事実です。金利3.0%のケースでは手残りが年8.1万円のマイナスですが、元金は年29.5万円減少しています。ただしこの状態を維持するには、毎年の持ち出しに耐える現金が必要です。
フルローンは危険ですか
危険というより、選択肢が減ります。自己資金を入れていない分、価格下落時に売却しても残債が消えません。保有を続けるほかなくなり、金利上昇や家賃下落への対応余地が失われます。
営業担当者の収支シミュレーションは信用できないのですか
数字自体の誤りは多くありません。問題は前提です。空室率0%、家賃35年一定、金利固定、35年後も購入価格で売却。この4つが置かれていれば、収支は必ず黒字になります。確認すべきは結論ではなく前提です。
相談すると物件を勧められるのではないですか
弊社は投資用不動産の販売・媒介を行いません。売る物件を持たないため、構造的に売り込みが成立しません。検証の結果、見送るべきという結論であればそのように伝えます。
まとめ
不動産投資のメリットとデメリットは、10個ずつ並べて比較するものではありません。すべてが「借入で買う」という一点に帰着する以上、天秤は項目数では傾かないからです。
傾きを決めるのは、自己資金の比率、借入金利、保有年数、そして家賃下落への耐性です。これらを自身の数字で数式に入れたとき、はじめてどちら側に立っているかが定まります。記事を読んで決まることではありません。
強みか、弱みか。
それを決めるのは、あなたの借入条件です
物件を販売しないFP事務所が、あなたの数字で計算します。初回診断は、本格的な検証が必要かどうかを切り分けるための時間です。検証は不要という結論で終わっても構いません。
初回診断を予約する45分・オンライン ¥5,500(税込)本記事の試算はいずれも一定の前提に基づく概算であり、収益・売却価格・融資条件・税額を保証するものではありません。実際の数値は物件・地域・金融機関・時期によって異なります。個別の税務判断は税理士に、法務判断は弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
前提金利は2026年7月時点の一般的な水準を参考にしています。